多発性骨髄腫と似ている病気

POEMS症候群とは

Q1.
POEMS(ポエムス)症候群とはどのような病気ですか?
A1.
形質細胞や、まれにB細胞の腫瘍が原因で起こり、それに伴って血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の上昇や多発性末梢神経障害をはじめとする様々な症状がみられます

病気の特徴

POEMS症候群は、多発性骨髄腫と同じように、形質細胞(抗体を作る細胞)や、まれにB細胞に異常が起こり(Q3の図2参照)、腫瘍化する病気です。しかし、多発性骨髄腫とは異なり、POEMS症候群では腫瘍化した形質細胞から血管内皮細胞増殖因子(VEGF;がん細胞などが新たに血管を作って増殖するのを助ける物質)という蛋白質が作られるのが特徴で、これがいろいろな症状を引き起こすのではないかと考えられています。多発性骨髄腫に合併することはほとんどなく、MGUS(エムガス;基礎編「いろいろなタイプの多発性骨髄腫」参照)や形質細胞腫などの比較的良性の形質細胞の腫瘍に合併することが多い疾患です。なぜ形質細胞の腫瘍にPOEMS症候群が合併するのかは解明されていませんが、形質細胞の腫瘍化にはMGUSや多発性骨髄腫と同様の機序が関与している可能性が推測されます。

POEMS症候群の“POEMS”とは、この病気の代表的な5つの症状を英語であらわした時の頭文字を5つ並べたものです(表)。PはPolyneuropathy(多発性神経障害)、OはOrganometly(臓器腫大)、EはEndocrinology(内分泌異常)、MはM-protein(M蛋白血症)、SはSkin lesion(皮膚異常)を意味しています。なお、この病気を報告した研究者の名前をとって、Crow-Fukase(クロウ・深瀬)症候群、あるいは高月(たかつき)病と呼ぶこともあります。なぜ形質細胞やB細胞の腫瘍にPOEMS症候群の5つの症状が起こるのかはわかっていませんが、血液中に増加するVEGFが何らかの働きをしていると考えられています。また、キャッスルマン病(コラム『キャッスルマン病とは』参照)という、これも原因不明のまれな血液疾患に合併しやすいことも知られています。

表 POEMS症候群の代表的な5つの症状

POEMS症候群はまれな病気で、2004年の厚生労働省難治性疾患克服研究事業「免疫性神経疾患に関する調査研究班」による全国調査によると、日本での患者数は約340名とされています(難病情報センターの資料より)。発症年齢は多発性骨髄腫と比べて若く(平均発症年齢は48歳)1)、20~30歳代の患者さんもみられます。女性より男性の方が1.5倍ほど多いと言われています。

診断

POEMS症候群は、特有の症状がみられるかどうかで診断されます。ただし、前述の“POEMS”(表)の症状すべてがみられるわけではありません。『多発性骨髄腫の診療指針 第4版』では、POEMS症候群と診断されるには以下の1〜3の基準を満たす必要があります。

  1. 以下の症状がどちらもみられる
    •  ・多発性神経障害
    •  ・単クローン性形質細胞増殖性疾患

  2. 以下の症状のうち、1つ以上にあてはまる
  3. 以下の症状のうち、1つ以上にあてはまる
    •  ・臓器腫大
    •  ・血管外体液漏出(浮腫、胸水、腹水)
    •  ・内分泌異常
    •  ・皮膚異常
    •  ・乳頭浮腫
    •  ・血小板増加、多血症

〔多発性骨髄腫の診療指針 第4版, 2016 (引用元:Dispenzieri A, et al., Am J Hematol, 2015; 90: 951–962)に基づいて作成〕

POEMS症候群では“歩けなくなる”、“立てなくなる”、“寝たきりになる”など、多発性神経障害の症状が最も多くみられ、神経内科から血液内科に紹介されてくるケースがほとんどです。神経内科で末梢神経伝導速度などの検査を行い、末梢神経障害を確認します。その上で、障害の原因が特定できなければ、POEMS症候群の可能性を考え、血液内科で詳しい検査を行います。血液内科では、時にほかの診療科と連携しながら、肝臓や脾臓が肥大していないかどうか、M蛋白を作っている形質細胞の腫瘍があるかどうかをCT検査で調べます。血液検査では、必ずVEGFの値を確認し、さらに内分泌異常などについても検査を行います。また骨髄穿刺(こつずいせんし;骨に針を刺し、その骨の内部にある骨髄液を採取する方法)を行って、骨髄に形質細胞がみられるかどうかも確認します。

治療

“立てない”、“歩けない”などの症状は、患者さんにとって精神的に大きなダメージとなりますので、POEMS症候群と診断されたら、すぐに治療を開始します。治療によって治癒(ちゆ;病気が治ること)に近い状態まで回復すれば、ほとんどの患者さんでは症状が改善され、歩けるようになります。

POEMS症候群では、M蛋白を作っている形質細胞の腫瘍を標的として、それを消失させるような治療を行う必要があります。一般に、まず自家末梢血幹細胞移植が考慮されます。これは、大量の抗がん剤を投与して腫瘍細胞を死滅させた後に、あらかじめ採取しておいた自分の造血幹細胞(血液のもとになる細胞)を体内に戻すという治療法です。(基礎編「自家造血幹細胞移植ってどんな治療?」参照)。移植を行うと神経障害が改善し、歩けるようになる患者さんがほとんどです。

一方、高齢や腎機能の低下など、何らかの理由で移植が行えない患者さんでは、お薬による治療を行います。新しいお薬のなかには、POEMS症候群に効果を示すことがわかっているものもあります。

治療の効果は、M蛋白やVEGFの値が低下したことで確認します。一方、神経は一度障害を受けると、再生するまで半年ほどかかると言われています。そのため、神経障害のある患者さんでは、治療によってVEGFなどの値が下がっても、半年くらいはリハビリを続ける必要があります。まず立てるようになり、その後、ようやく手すりを持って歩けるようになるというように、少しずつ改善されていくのが一般的です。リハビリを行ったからといって急に歩けるようになるわけではありませんので、あせらずに、治療とリハビリを続けることが大切です。

また、仮に最初の治療が効かなくても、お薬を変えるなど、ほかにも治療選択肢があります。大切なのは、主治医の先生の指示に従って、治療を続けることです。勝手に治療を止めてしまうと、一度下がったVEGFなどの値が再び高くなってしまうことがあります。

日常生活で注意すること

比較的若い患者さんであれば、多発性骨髄腫の患者さんのように“骨がもろくなる”、“骨折しやすくなる”という心配をする必要はなく、日常生活で特に注意することはありません。ただし、移植を行った直後は免疫機能が低下していますので、感染症に気をつける必要があります。移植直後ほどではありませんが、お薬の服用中にも免疫機能が低下することがありますので感染症には注意しましょう。また、服用中のお薬による副作用にも気をつけるようにしましょう。


<引用文献>

1) 高月 清, 日本内科学会雑誌, 1995; 84: 1117–1121
コラム
『キャッスルマン病とは』

キャッスルマン病は、別の血液の病気で、がんではありません。キャッスルマン病の患者さんではPOEMS症候群が起こりやすいと言われていますが、その原因はまだ解明されていません。一般に全身もしくは特定のリンパ節が腫れますが、無症状でおとなしいタイプと、全身のリンパ節が腫れて38℃以上の発熱や炎症反応などがみられるタイプがあります。時に腎臓などの臓器に障害が起こり、透析が必要になることもあります。炎症反応があると、血液検査でCRP(C反応性蛋白)という検査項目の上昇が認められます。