感染症にかからないために

多発性骨髄腫と感染症

Q1.
多発性骨髄腫では、なぜ感染症にかかりやすいのですか?
A1.
病気そのものによって免疫力が低下するのと同時に、お薬によってさらに免疫力が低下する場合があるからです

まず、私たちの体の中に異物が侵入したときに、体を守ってくれている免疫細胞についてお話しします。私たちの体を守る役目をもっているのは白血球で、そのなかでも好中球(こうちゅうきゅう)とリンパ球という細胞が重要です(図)。好中球は、主に体の中に入ってきた細菌(バイ菌)を食べて溶かしてしまうという機能をもっています。リンパ球は大きく分けてT細胞とB細胞からなります。T細胞はさらに、キラーT細胞と言って(キラーは、“殺し屋”という意味があります)、がん細胞やウイルスに感染した細胞を攻撃する役目をもつ細胞と、キラーT細胞やB細胞を助ける役目をもつヘルパーT細胞に大きく分けられます。

図 私たちの体には異物を攻撃する力(免疫力)が備わっていますが、多発性骨髄腫ではそのような力が低下しています

さらに、私たちの体を異物から守ってくれるもう1つの大きなシステムは、B細胞が成熟した細胞(形質細胞)がつくる免疫グロブリン(抗体)です。抗体は、ありとあらゆる異物(細菌、ウイルス、カビ等)にくっついて、異物を中和・攻撃したり、好中球などの細胞が異物を発見しやすくなるように異物に目印をつけるといった役目をもっています。

ところが多発性骨髄腫では、このような異物を攻撃する力(免疫力)が低下してしまいます。その理由として、2つの大きな問題が考えられます。まず第一に、骨髄で異常に増殖した“骨髄腫細胞”は、血液をつくる大切な畑(骨髄)を荒らしてしまいますので、畑は白血球などの血液をつくれなくなり、異物を攻撃する細胞が減っていきます。また骨髄腫細胞は異物を攻撃する力をもたない抗体(“M蛋白”と言います)をつくる一方で、正常な抗体をつくる形質細胞をどんどん押さえ込んでしまいます。その結果、私たちの体を守ってくれる正常な抗体がどんどん減り、免疫力が低下してしまうのです。

第二に、多発性骨髄腫の治療では抗がん剤を長期にわたって投与する場合が多いのですが、ある種の抗がん剤は、骨髄が血液をつくる働きを弱めてしまいます。その結果、白血球(特に好中球とリンパ球)が減り、免疫力が低下してしまいます。また、ステロイドというお薬は骨髄腫細胞の数や悪い働きを抑える重要な薬ですが、同時に正常なリンパ球(キラーT細胞や抗体産生細胞など)も少なくなり、免疫力が低下してしまうのです。

このように多発性骨髄腫では、病気そのものによる免疫力の低下に加えて、治療によって、一定の期間は免疫力がさらに落ちてしまうことに注意する必要があります。この間に感染症にかかってしまうと、その後の治療が予定どおりにできなくなったり、入院しなければならなくなったりと、いろいろな問題が起こります。患者さんも医師側も十分に注意し、治療が順調に進むようにお互いに努力することが重要です。治療を続けていけば、骨髄腫細胞の数がだんだん減り、結果的には骨髄でうまく血液をつくれるようになり、減っていた白血球が増えてきますし、正常な抗体も回復してきます。それまでの間は、我慢して乗り越えなければいけない時期だと考え、感染症の予防に特に注意を払う必要があります。